神戸地方裁判所姫路支部 昭和49年(ワ)291号 判決 1979年7月09日
原告 大西繁生
被告 有限会社金倉仏光堂
主文
一 被告は、別紙目録「仏壇彫刻部品名」欄記載の仏壇部品を構成する同目録「紋様」・「形状」欄表示の紋様および形状を有する彫刻を複製し、右複製物の販売、頒布、展示をしてはならない。
二 被告は前項記載の彫刻の複製物の完成品および半製品ならびにその製造に使用する型枠を廃棄せよ。
三 被告は原告に対し金一七五万円および内金一二五万円に対する昭和四九年一〇月一日から、内金五〇万円に対する昭和五四年七月一〇日から、それぞれ支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の、各負担とする。
六 この判決は第三項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、別紙目録「仏壇彫刻部品名」欄記載の仏壇部品を構成する同目録「紋様」・「形状」欄表示の紋様および形状を有する彫刻を複製し、右複製物の販売、頒布、展示をしてはならない。
2 被告は前項記載の彫刻の複製物、二次的著作物の完成品および半製品ならびにその製造に使用する型枠を廃棄せよ。
3 被告は原告に対して金一六〇〇万円およびこれに対する昭和四九年一〇月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行の宣言。
二 被告
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四四年頃、仏壇の内部を飾る彫刻について、別紙目録「仏壇彫刻部品名」の欄記載の各仏壇部品に同目録「紋様」欄記載の紋様を有する同目録「形状」欄表示の各彫刻(以下本件彫刻という。)の原型を完成し、以来、そのプラスチツク製品を製作販売してきたものであるが、右彫刻は、原告が彫刻師としての独自の美的感覚に基づき自己独特の方法により美的表象を表現した原告の独創にかかるものであり、原告は、右彫刻の完成・製作により、その著作権(以下本件著作権という。)を取得した。
2 被告は、仏壇の製造を業とする会社であるが、原告に無断で右彫刻を複製し、その複製物を販売、頒布、展示しており、被告の右行為は原告の本件著作権を侵害するものである。
3 被告は、本件著作権の存在を知りながら右侵害行為を行つたのであるから、原告が右侵害行為によつてこうむつた損害を賠償する業務がある。
4 原告の損害は次のとおりである。
被告は昭和四七年九月から昭和四九年八月二〇日までの間、仏壇彫刻部品の一部に本件彫刻の複製物を使用した仏壇(その大部分はスミ段に別紙目録番号11または12記載の彫刻の複製物を使用したもの)を少なくとも九四六六台(月産四〇〇台)を、また、仏壇彫刻部分全部に本件彫刻の複製物を使用した仏壇を少なくとも二三六台(月産一〇台)を各製作したのであるが、別紙目録番号11または12記載の彫刻の複製物の販売単価はいずれも金一八〇〇円であり、また、仏壇一体を製作するのに要する、本件彫刻にかかる仏壇彫刻部品全部の販売価格は金八万二八〇〇円であり、その利益率はいずれも七六パーセントを下らず、すると、被告は右製作により少なくとも金二七八八万三七五〇円の利益を得、これは著作権法一一四条一項により原告の損害となる。
原告は右損害金の内金一五〇〇万円と本件訴訟の弁護士費用金一〇〇万円を請求する。
5 よつて、原告は被告に対し本件彫刻の複製と右複製物の販売、頒布、展示の差止、右複製物と二次的著作物の完成品および半製品ならびにその製造に使用する型枠の廃棄、前記損害金合計金一六〇〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年一〇月一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、原告が本件彫刻を完成・製作したことは不知、その余は否認する。
本件彫刻は、著作権法二条一項一号に規定する「思想又は感情を創作的に表現したもの」でもなければ、「美術の範囲に属するもの」でもないので、著作物としての保護を受けない。その理由は以下に述べるとおりである。
(一) 思想、感情の創作的表現性について
本件彫刻の紋様は、いずれもわが国における仏教関係の荘厳に古来より伝統的に襲用されてきたものであり、仏壇彫刻の分野においても古くから装飾紋様として用いられてきたものである。
しかも、仏壇は歴史のある宗教的用具であるため、宗派によつて多少の差異はあるものの、その型式および彫刻紋様は特定のものに限定されており、新たな紋様が採り入れられる余地はない。
また、紋様の表現形態も、古くから残された彫刻を模倣して製作する方法が伝承されており、個々の製作者によつて創作的に独自の表象が表現されうるものでもない。
本件彫刻もかかる方法で製作されたものであり、ただプラスチツク成型しやすいように工夫されたところに特異性がみられるにすぎず、そこには何らの創作性もみられない。
(二) 美術性について
仏壇は、現下、わが国の仏教信者の実用品化し、工業上画一的方法により大量生産されているから、仏壇の完成品はもとより各個の彫刻物も美術の範囲に属するものとはいえない。
2 同2の事実中、被告が仏壇の製造を業とする会社であることは認め、その余は否認する。
被告は姫路型仏壇の製造を企画し、原告から購入した本件彫刻を他の一〇種類を越える彫刻とともに参考資料として独自に仏壇彫刻を製作したものであり、被告が製作した彫刻は、本件彫刻とは大きさ、配置等において異なり、形状の同一のものはなく、その一部分に本件彫刻からその紋様の一部を複製して使用したものが存するにすぎず、本件彫刻の複製物ではない。
3 同3、4の事実は否認する。
第三証拠<省略>
理由
一 原告本人尋問の結果(第一回)によりいずれも原告製作の彫刻を使つた仏壇の全体および部分の写真と認められる甲第一号証の一ないし一五、同第二号証の一ないし一六、同本人尋問の結果(第一回)により原告製作の彫刻の原型の写真と認められる甲第四号証の一ないし一一、同本人尋問の結果(第一回)、検証の結果によれば、原告が本件彫刻を製作したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで、本件においては、著作権法二条一項の規定する著作物性の要件たる、本件彫刻の創作性および美術性が争われているので、まず、これらの点について順次判断する。
二 本件彫刻の創作性について考える。
原告本人尋問の結果(第一、二回)および検証の結果を総合すると、原告は昭和二八年中学卒業と同時に彫刻師の従弟となり数年間仏壇を含む各種彫刻の製作につき修業をしたのち、昭和三二年頃に独立し、爾来仏壇彫刻の製作・研究を行つてきたこと、従来仏壇彫刻は手彫り(木彫)で製作されていたが、原告は、将来大量生産の可能なプラスチツク製仏壇彫刻が普及すると予想し、昭和三〇年代の後半から木彫りとかわらない状態に仕上げることのできるプラスチツク製仏壇彫刻の製作の研究に取り掛け、昭和四四年頃、本件彫刻(原型・木彫)を完成し、以来、そのプラスチツク製品を次の方法により製作し市販するようになつたこと、本件彫刻は、右原型からシリコンゴムで型枠をとり、その中にポリエステル樹脂(プラスチツクの一種)を注入して製作されうるため、その大量生産が可能であること、原告は、右原型の考案に際しては、多年に亘り、多くの古文書および古典仏壇彫刻を網羅し参考としつつ、仏壇彫刻師としての美的感覚と技法を駆使し、既製仏壇を模写することなく特異の美的表象を創案すべく、殊に型枠使用による大量生産にも適合するよう配慮しながら、右彫刻の紋様を立体的、写実的に精巧かつ端麗な表現を表象するよう、独自の執刀方法で描くことに苦心したすえ、独自の創意による本件彫刻(原型)を完成したこと、以上の事実が認められ、後記措信しない証拠(人証)を措いて、他に右認定に反する証拠はない。
右認定事実に前出甲第一号証の一ないし一五、同第二号証の一ないし一六、同第四号証の一ないし一一および検証の結果により認められる本件彫刻の形状・構成をあわせ考えると、本件彫刻は原告が長年の研究の成果として独自の着想により仏教美術の一部に属する仏壇装飾につき感情を創作的に表現したものと認めることができる。
もつとも、被告は、仏壇彫刻の紋様は古来より特定のものに限局され、永年にわたりこれを模写してきたものにすぎず、製作者により殊更創作的に表現されうるものではない、と主張している。
なるほど、証人馬殿貞夫の証言によれば、仏壇彫刻の文様は、既に室町桃山時代から特定の紋様に限局され、本件彫刻の紋様も当時既に存在していたことが認められ(これに反する証拠はない)、また、原告が本件彫刻の完成につき古文書および古典仏壇彫刻を研究しこれを参考にしたことは前判示のとおりである。
しかしながら、著作物の創作性は当該著作物が著作者の独自の創意工夫により著作されたか否かにあり、その表現形式等において先人の影響が存したからといつて直ちにこれを否定されるべきではなく、具体的著作物がその模写ではなくそこに知的創造活動が認められるときは、その著作物に創作性を肯定すべきものと解するのが相当である(したがつて、著作権における創作性は相対的なものであり、工業所有権における創作性の如く新規性すなわち絶対的な独創性を要しないといわねばならない)。
本件彫刻は、原告がその独自の創意工夫により完成したものであり、その表現形式も独特の着想に基づくこと、前段所述のとおりであつて(これに反する、右彫刻に何らの特異性も認められないという証人金倉豊、同馬殿貞夫の証言は、これを裏付けるに足る適確な補強証拠がないのでにわかに措置できない)、また、被告が本件彫刻の完成前からあつた仏壇彫刻と主張する乙第一ないし第三号証も、本件彫刻と対照するに、これと類似するものではないと検証することができ、他に本件彫刻が先人の模写に留まるものとする確証は存在しないところである。したがつて、被告の前記主張は採用することができない。
以上のとおりであるから、本件彫刻は原告の独創に基づくものといわねばならない。
三 次に、本件彫刻の美術性について考える。
本件彫刻が、仏壇内部の装飾につき美的表現を目的とした美術に関する著作であることは、前判示のとおりである。
一般に、美術は、(1)個別に製作された絵画・版画・彫刻の如く、思想または感情が表現されていて、それ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しない純粋美術と、(2)実用品に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用した応用美術に分かれ、後者すなわち応用美術はさらに、(イ)純粋美術として製作されたものをそのまま実用品に利用する場合、(ロ)既成の純粋美術の技法を一品製作に応用する場合(美術工芸品)、および、(ハ)右純粋美術に見られる感覚あるいは技法を画一的に大量生産される実用品の製作に応用する場合等に細分されていることは周知のところである。
本件彫刻は、前判示のとおり、原型たる木彫そのものを一品として鑑賞するものではなく、原型に合せて型枠をシリコンゴムで作り、これにプラスチツクを注入して同型のものを大量に製作し、これを仏壇の装飾に利用することを目的としているものであるから、前記応用美術のうち(ハ)の部類に属するものと解される。
ところで、著作権法は、その二条一項一号で美術の範囲に属するものを著作物の対象とすると規定するとともに、同条二項では、「美術の著作物」には美術工芸品を含む、と規定しているので、応用美術のうち美術工芸品に属しないものは美術の著作物として著作権法の保護の対象となりうるかは問題である。
応用美術をどこまで著作権法の保護対象となすべきかは意匠法等工業所有権制度との関係で困難な問題が存すること周知のところであるが、著作権を意匠権を対比してみると、等しく視覚を通じた美感を対象とする作品であつても、著作権の対象とされると、何らの登録手続や登録料の納付を要せずして当然に著作権が成立し、かつ、著作者の死後五〇年間右権利の存続が認められるのに対し、意匠権にあつては、設定登録によつて初めて発生し、登録料の支払を要し、その存続期間も設定登録の日から一五年間に限られており、両者の保護の程度は著しく相異していること(なお、意匠権以外の工業所有権にあつては、その実施義務が課されている)、および、産業上利用を目的とする創作は総じて意匠法等工業所有権制度の保護対象としていること等を勘案すると、応用美術であつても、本来産業上の利用を目的として創作され、かつ、その内容および構成上図案またはデザイン等と同様に物品と一体化して評価され、そのものだけ独立して美的鑑賞の対象となしがたいものは、当然意匠法等により保護をはかるべく、著作権を付与さるべきではないが、これに対し、実用品に利用されていても、そこに表現された美的表象を美術的に鑑賞することに主目的があるものについては、純粋美術と同様に評価して、これに著作権を付与するのが相当であると解すべく、換言すれば、視覚を通じた美感の表象のうち、高度の美的表現を目的とするもののみ著作権法の保護の対象とされ、その余のものは意匠法(場合によつては実用新案法等)の保護の対象とされると解することが制度相互の調整および公平の原則にてらして相当であるというべく、したがつて、著作権法二条二項は、右の観点に立脚し、高度の美的表現を目的とする美術工芸品にも著作権が付与されるという当然のことを注意的に規定しているものと解される。
そうだとすると、図案・デザイン等は原則として意匠法等の保護の対象とのみなることは勿論のこと、工業上画一的に生産される量産品の模型あるいは実用品の模様として利用されることを企図して製作された応用美術作品も原則的に専ら意匠法等の保護の対象になるわけであるが、右作品が同時に形状・内容および構成などにてらし純枠美術に該当すると認めうる高度の美的表現を具有しているときは美術の著作物として著作権法の保護の対象となりうるわけである。
本件についてみると、本件彫刻は仏壇の装飾に関するものであるが、表現された紋様・形状は、仏教美術上の彫刻の一端を窺わせ、単なる仏壇の付加物ないしは慣行的な添物というものでなく、それ自体美的鑑賞の対象とするに値するのみならず、前判示の如く、彫刻に立体観・写実観をもたせるべく独自の技法を案出駆使し、精巧かつ端整に作品を完成し、誰がみても、仏教美術的色彩を背景とした、それ自体で美的鑑賞の対象たりうる彫刻であると観察することができるものであり、その対象・構成、着想等から、専ら美的表現を目的とする純枠美術と同じ高度の美的表象であると評価しうるから、本件彫刻は著作権法の保護の対象たる美術の著作物であるといわなければならない。したがつて、これに反する被告の主張は採用することができない。
四 以上のとおりであるから、本件彫刻は著作権法の保護の対象たる著作物に該当するといわなければならない。
五 そこで、被告が本件彫刻を複製したか否かについて判断する。
被告製作の仏壇の全体および部分の写真であることに争いのない甲第三号証の一ないし一九、成立に争いのない甲第五・第六号証、証人浜田吉廣、同吉田敏彦(一部)、同金倉豊(一部)の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)および検証の結果を総合すると、被告は昭和四七年三月二二日原告から本件彫刻たる花鳥紋様のものおよび獅子牡丹紋様のもの各一組(いずれも前机部分の彫刻を含む。)を金一三万円で買受けたこと、被告は右彫刻を、そのままで、あるいは、製作の都合上別紙目録1記載の彫刻については天女紋様の手の部分の形を変え、同11記載の彫刻については岩の紋様の配置を変え、獅子の紋様の一部を削除し、同7、9、16、18記載の各彫刻については全体の大きさを変えるなど、その一部紋様の配置や大きさを変え、または、一部を削除するなどの修正を加えたうえ、シリコンゴムで型枠をとり、右型枠にプラスチツクを注入して仏壇彫刻を製作し、右彫刻を被告製作の仏壇の装飾に使用し、展示し、販売したことが認められ、証人金倉豊および同吉田敏彦の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信できず、他に右認定に反する証拠はない。
右認定事実に検証の結果を総合すると、被告が製作した前記彫刻は本件彫刻の表現上の特徴をすべて備えており、本件彫刻を複製し利用したものというべきであり、したがつて、被告の右行為は原告の本件彫刻についての著作権(複製権)を侵害するものというべきである。
もつとも、被告は、被告製作にかかる右彫刻は本件彫刻と全く同一でなく、その大きさ・配置等が異なるから、その複製とはいえない、と主張するが、著作物複製の有無は、創作にかかる具体的表現が製作物中に利用されたか否かにあり、末節において多少の修正等が施されていても、当該作品が原作の再現と感知させるものはなお複製とみるのが相当であつて、本件においても、前記認定のとおり、その作品の出来映えなどからすれば、被告の施した修正は微細なものにすぎず、本件彫刻と彼此対比すると、被告製作にかかる右彫刻が本件彫刻の再現であることは容易に首肯することができ、被告の本件彫刻取得の経緯、その利用の方法・目的などをも勘案するとき、被告製作の右彫刻は本件彫刻の複製であり、改作あるいは新作等には当らないものというべく、したがつで、被告の前記主張は採用することができない。
なお、被告が本件彫刻につき、かつてその二次的著作物の製作を試みあるいは、将来その製作を試みるおそれについては、なんら立証がないから、被告に対し右二次的著作物の完成品、半製品およびその製造に使用する型枠の廃棄を求める原告の請求は理由のないものである。
六 原告本人尋問の結果および検証の結果によれば、原告は、前記のとおり被告に本件彫刻を売却する際、被告会社代表者に対し、右彫刻が永年研鑚の成果であるので、盗用しないように注意したこと、および、右彫刻の裏面には「意匠登録申請済、実用新案申請済、不許複写複製」と記載された紙片が貼付されていたことが認められ(これに反する証拠はない)、右事実および被告が仏壇製造業者であること(この事実は当事者間に争いがない。)に照らすと、被告は、前記複製行為が本件著作権を侵害することにつき、少なくとも過失があつたものということができる。
七 進んで、原告の損害について判断する。
1 財産物損害について
成立に争いのない乙第四号証、証人吉田敏彦および同金倉豊の各証言、検証の結果によれば、被告は昭和四九年三月頃から本件彫刻の複製物を製造使用するようになり、同年八月二〇日までに、トヨセに描かれた象鼻の彫刻以外は本件彫刻の複製物を使用した姫路型仏壇を二五台、スミ段に別紙目録番号11記載の彫刻の複製物を使用した仏壇を少なくとも八四台、それぞれ製作して販売したことが認められ、証人金倉豊の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信できず、他に右認定に反する証拠はない。
成立に争いのない乙第五号証の一ないし二七、同第六号証の一ないし二八および証人金倉豊の証言によれば、昭和四九年頃の被告が製造する姫路型仏壇一台の製造原価は金六〇万円であり、これを金八五万円を下らない金額で小売店へ卸しており、右仏壇一台につき少なくとも金二五万円の純利益を得ていたことが認められる。
ところで、弁論の全趣旨によれば、原告は仏壇彫刻のみを製造販売し、仏壇そのものの製造販売はしていなかつたことが認められ、また、証人浜田吉曠の証言によれば、仏壇価格のうち仏壇彫刻価格の占める割合は二割を下らないことが認められ(これら認定に反する証拠はない)、すると、ほかに特段の事情の認められない本件においては、原告が製造する姫路型仏壇一台の販売利益のうち、昭和四九年頃、仏壇彫刻部分の占める割合は前記利益金二五万円の二割すなわち金五万円を下らないものと認めるのが相当である。
そして、前記姫路型仏壇の仏壇彫刻について、本件彫刻を複製使用していない部分はトヨセに描かれた象鼻の部分のみであることは前判示のとおりであり、かつ、検証の結果によると、右象鼻の部分は右仏壇彫刻全体のうち、極めて微細かつ付加的なものと認められるから、本件彫刻を複製使用したことによつて被告の得た利益は、前記利益金五万円全額に等しいものと評価するのが相当である。
そうすると、被告が右姫路型仏壇を製造販売して得た本件彫刻の複製部分についての純利益は、前記認定の一台あたり利益金五万円に販売台数二五台を乗じた金一二五万円となり、これは著作権法一一四条一項により原告の被つた損害と推定され、右推定を覆すに足りる証拠はない(なお付言すると、原告は、被告の右複製物と同量の本件彫刻を被告が原告から買受けていれば原告が得たであろう利益をもつて、著作権法一一四条一項による原告の損害になると主張しているが、しかし、同項は著作権侵害行為によつて侵害者の得た利益をもつて著作権者の被つた損害と推定する規定であると解されるから、原告主張の右損害額算定方法は採用しえない)。
次に、被告がスミ段の一部に本件彫刻の一部を複製使用した仏壇八四台を製造販売したことによる原告の損害を検討するに本件全証拠によるも被告が右著作権侵害行為によつて得た利益の額を認定することができず、他に原告の損害を認めるに足りる証拠はない。
2 弁護士費用について
原告が原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、相当の着手金および報酬を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により認められ、本件事案の内容、訴訟の経緯、認容された請求部分その他本件にあらわれた事情を勘案すると、被告の支払うべき弁護士費用は金五〇万円と解するのが相当である。
八 以上のとおりであつて、原告の請求は、被告に対し本件彫刻の複製と右複製物の販売、頒布、展示の差止、右複製物の完成品および半製品ならびにその製造に使用する型枠の廃棄、および、財産的損害金一二五万円とこれに対する不法行為の後日である昭和四九年一〇月一日から、弁護士費用金五〇万円とこれに対する本判決言渡の日の翌日である昭和五四年七月一〇日から、それぞれ支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用し、なお主文第一、二項については仮執行の宣言は相当ではないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判官 砂山一郎 見満正治 辻川昭)
目録
番号
仏壇彫刻部品名
紋様
形状
1
サマ
雲・天女
別紙写真1
2
ホトコロ
龍
同2
3
コザマ
天女
同3
4
カトウ
菊唐草
同4
5
トヨセ
龍
同5
6
トヨセ
花鳥
同6
7
ライハン
獅子牡丹
同7
8
ライハン
花鳥
同8
9
余マ
獅子牡丹
同9
10
余マ
花鳥
同10
11
スミ段
獅子牡丹
同11
12
スミ段
花鳥
同12
13
中段
獅子牡丹
同13
14
中段
花鳥
同14
15
ケゴミ
獅子牡丹
同15
16
ケゴミ
花鳥
同16
17
中敷
獅子牡丹
同17
18
中敷
花鳥
同18
19
前机ヒレ
牡丹
同19
20
前机シヨク上三ツ割
唐草
同20
21
前机シヨク上
獅子牡丹
同21
22
前机シヨク上
花鳥
同22
23
前机シヨク下
獅子牡丹
同23
24
前机シヨク下
花鳥
同24
25
前机波
波
同25
以上
目録番号1の写真<省略>
目録番号2の写真<省略>
目録番号3の写真<省略>
目録番号4の写真<省略>
目録番号5の写真<省略>
目録番号6の写真<省略>
目録番号7の写真<省略>
目録番号8の写真<省略>
目録番号9の写真<省略>
目録番号10の写真<省略>
目録番号11の写真<省略>
目録番号12の写真<省略>
目録番号13の写真<省略>
目録番号14の写真<省略>
目録番号15の写真<省略>
目録番号16の写真<省略>
目録番号17の写真<省略>
目録番号18の写真<省略>
目録番号19の写真<省略>
目録番号20の写真<省略>
目録番号21の写真<省略>
目録番号22の写真<省略>
目録番号23の写真<省略>
目録番号24の写真<省略>
目録番号25の写真<省略>